治安問題はほぼ皆無、報道陣からも好評
W杯開催がロシアに大きな遺産を残す

元川悦子

欧州のサポーターが少ない印象の今大会

今大会は欧州のサポーターがかなり少ない印象を受ける

今大会は欧州のサポーターがかなり少ない印象を受ける【Getty Images】

 6月14日(現地時間、以下同)に開幕した2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会も早いもので1カ月が経過し、最終局面を迎えている。10、11日には準決勝2試合が行われ、フランスとクロアチアがファイナルに進出。ベルギーとイングランドが14日の3位決定戦に回り、勝ち上がった2カ国が15日、モスクワのルジニキ・スタジアムで王者の座を懸けた大一番に挑むことになった。


 ここまで11都市・12会場で62試合が行われてきた今大会は、全体を通して大きなトラブルもなく、順調に過ぎている。しかし、開幕前はロシアの治安や安全面が大いに懸念されていた。


「2年前の16年のユーロ(欧州選手権/フランス)では、イングランド対ロシアが行われたマルセイユのスタジアムで両国サポーターが衝突し、35人が負傷する痛ましい事件が起きました。一方、ロシア対スロバキアが行われたリールでも、ロシアの過激なサポーターがイングランドとウェールズのファンを挑発し、小競り合いに発展するケースがありました。


 こうした出来事が西ヨーロッパの人々にはネガティブに映り、『ロシアのサポーターは怖い』『過激派が動いている』『いつテロが起きるか分からない』というイメージが色濃く残りました。加えて、プーチン政権に対する批判的見方も依然として根強い。こうした理由から、今回、現地に出向く人が極端に減ったんです」とベルギーのウェブサイト『Voetbalkrant.com』のフロレント・マリス記者は指摘する。


 確かに今大会、観客席を見てみると、欧州のサポーターがかなり少ない印象を受ける。1990年のイタリア大会以来のベスト4進出を果たしたイングランドのファンも、11日の準決勝・クロアチア戦に1万〜1万5000人程度が訪れただけだという。約7万8000人収容のルジニキでは、サポーターは「ゴール裏の一角を占めている」というイメージで、スタンドの過半数を席巻した過去のW杯やユーロに比べると、やや勢いや迫力が足りないように感じられた。


「自国の代表が快進撃を見せ始めるのに伴い、サポーターが大会途中から現地に赴こうとする動きがこれまでのW杯では多かった。しかし、今回はチケットを持っていないとビザ代わりの『ファンID』を取得できないため、急に思い立って動くことが不可能でした。W杯は世界中の人が集まる巨大な祭り。だからこそ、チケットを持つ持たないにかかわらず、もっと人々の往来が自由になれば良かった。ロシアの組織委員会にはそう仕向けてほしかったです」とブラジルの日刊紙『Metro』のフェルナンド・バレイカ記者も残念がっていた。


 結果的に大会を主に盛り上げたのは、チケットを購入して南米やアジアからやってきた人々と地元・ロシア人。欧州で開催されているW杯としては一種、独特な雰囲気が漂っていたのは事実だろう。

セキュリティー体制の徹底で治安問題はほぼ皆無

ロシア国内のセキュリティー体制が徹底され、大きな問題は起きていない

ロシア国内のセキュリティー体制が徹底され、大きな問題は起きていない【写真:ロイター/アフロ】

 ただ、西欧の人々が当初、深刻に捉えていた治安の問題は皆無に等しかった。その一因として挙げられるのが、ロシア国内のセキュリティー体制の徹底だ。


 同国では目下、空港、鉄道やメトロの駅などにX線検査機が設置されていて、爆発物など危険な事態を引き起こす可能性のあるものは全て排除される仕組みになっている。スタジアムの入場ゲートも同様で、事細かいチェックが連日、行われていた。


 メディアの場合はX線検査機に荷物を通すだけではダメで、係官がパソコンや携帯電話、カメラなどの電子機器を1つ1つ出させて確認し、電波を発するものは持ち込ませないという厳しい警戒体制をとっていた。スーツケースに入っている衣類や下着など、身の回りの品々まで調べられ、「怒り心頭に発した」と話した報道関係者がいたほど、セキュリティーチェックは極めて厳しかった。


 その成果もあって、スタジアム内で発煙筒が焚かれたり、異物が投げ込まれるような例は今のところ起きていない。ファンやメディア関係者が深刻な事件や事故に巻き込まれたケースも少ないようだ。

元川悦子

著者名
元川悦子
著者紹介文

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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