長所を生かし、弱点を補うイングランド
彼らはこうしてPK戦の呪縛を解いた

田嶋コウスケ

7大会ぶりのベスト4進出に英国中が熱狂

スウェーデンに2−0で勝利し、準決勝に進出したイングランド

スウェーデンに2−0で勝利し、準決勝に進出したイングランド【Getty Images】

 イングランド代表が、ワールドカップ(W杯)ロシア大会で準決勝に進出した。


 ベスト4進出は1990年イタリア大会以来、28年ぶりの快挙である。過去を振り返っても66年イングランド大会(優勝)と、90年イタリア大会(4位)に次いで、今回で3度目。当然のように、英国内の熱狂は極限まで高まっている。


 その証拠に、「栄冠をわれらに」との願いが込められたイングランド代表の応援曲『スリー・ライオンズ』(96年発表)が、ここにきてリバイバルヒット。コロンビアとの決勝トーナメント1回戦を突破すると、テレビやラジオ、街角でこの曲を耳にしない日はなくなった。


 W杯開幕前は代表への期待が極端に低かったことも、国民の盛り上がりに拍車をかけた。「現実的な目標はベスト8」と厳しい意見が多くを占めていた中、グループステージはパナマとチュニジアの「2弱」と同居したおかげで早々と突破を決めた。こうして迎えたコロンビアとの決勝トーナメント1回戦──。絶望的なほど苦手意識を抱えていたPK戦を制し、W杯の過去3戦で全敗していたPK戦の呪縛から解放された。


 さらに準々決勝では、強固な守備組織に定評があるスウェーデンを2−0で撃破。平均年齢25.6歳の若きイングランドは試合をこなすごとに自信を深め、ついにベスト4まで上り詰めたのである。


 とはいえ、ハメス・ロドリゲスをけがで欠いたコロンビアとの決勝トーナメント1回戦、強豪国に比べると力で劣るスウェーデンとの準々決勝と、対戦相手に恵まれた印象はどうしても拭えない。しかし、運だけでここまで来たわけではない。思い返せば、たった2年前のユーロ(欧州選手権)の決勝トーナメント1回戦で人口わずか33万人の小国アイスランドに屈辱的な敗戦を喫した。今回の4強進出は「世代交代が順調に進んだ結果であり、確かな成長の証し」(英紙『タイムズ』)。「夢と希望は膨らむばかり」(英紙『デーリー・テレグラフ』)、「パフォーマンスはファーストクラス」(元イングランド代表FWアラン・シアラー)と、メディアも識者も賛辞の言葉を惜しまない。

周到に準備を進めてきたサウスゲイト監督

元代表DFのサウスゲイト監督は今大会で評価を上げている

元代表DFのサウスゲイト監督は今大会で評価を上げている【Getty Images】

 最大の功労者は、ユーロ敗退後の16年9月から指揮を執るガレス・サウスゲイト監督だろう。最も評価できるのは「できること、できないこと」の境界線をしっかりと定め、やるべきタスクを明確にしていることだ。


 特に目を引くのが、守備時に5バックに変形する最終ラインである。イングランドの基本形は3−5−2だが、相手のボールキープ時はウイングバックが最終ラインに加わる5バックに変形。5−3−2(あるいは5−2−3)で、分厚い守備ブロックを構築している。事実、守備固めした際のイングランドは強固そのもの。重心を低くしたコロンビア戦とスウェーデン戦でも、守備は大崩れしなかった。


 しかしその分、攻撃の組み立てには苦しんでいる。セットプレーに比べ、流れの中からのチャンス数が極端に少ないのが、その証拠だ。英BBC放送によると、決勝トーナメント1回戦までにイングランドがオープンプレー(=流れの中)から生み出したチャンスは「15回」。この数字はベスト8進出国の中で最も少なく、トップのベルギーが記録した「45回」の3分の1しかない。


 ちなみに8強の順位は、2位ブラジル(44回)、3位クロアチア(32回)、4位フランス(26回)、5位スウェーデン(25回)、6位ウルグアイ(22回)、7位ロシア(18回)だった(※数字はいずれも決勝T1回戦終了時)。意外なことに、後方に引いて分厚い守備ブロックを築いたロシアよりも、イングランドの方がオープンプレーのチャンス数は少ないのだ。


 たしかに試合を眺めていると、イングランドは極めてシンプルに攻撃を組み立てている。ボールを奪うと、早いタイミングで縦方向にパス。スペースに人を走らせ、手数をかけない単調な攻めでゴールに迫ろうとする。一方、敵に守備陣形を整えられると、今度はワイドエリアのウイングバックに展開。受け手と出し手がタイミングを合わせ、クロスボールからゴールを狙うパターンが多い。


 また、中盤のパスワークは拙く、3〜4人以上が絡んだ流動的な攻撃は少ない。中盤を省略した大味な攻めが現イングランド代表の特徴であり、結果として、オープンプレーからのチャンスメークに乏しいのだ。


 しかし、代わりに強力な得点源になっているのがセットプレーである。今大会、FK、CK、PKからイングランドが奪ったゴールの数は「8」。総得点は「11」で、ゴールの約4分の3をセットプレーから奪っていることになる。


 しかも、この数字はベスト8進出国の中で最も多い。2位タイは「5点」のウルグアイとロシア。4位は「4点」のベルギーで、5位タイに「3点」のスウェーデン、フランス、クロアチアがつける。一番少なかったのは「1点」のブラジルだ。イングランドの「8ゴール」は、やはり特筆すべき数字だろう。


 セットプレーの準備を周到に進めてきたことは、前回のコラムで詳しく述べた。スコットランド人コーチのアラン・ラッセルの指導で、アメリカンフットボールとバスケットボールを応用したセットプレーの練習を積んできた。

 実際、コロンビア戦では得意のCKからPKを獲得し、ハリー・ケインがそのPKを決めて先制。またスウェーデン戦でも、CKからハリー・マグワイアが先制ゴールを挙げた。オープンプレーからのチャンスメークには苦戦しているが、セットプレーで効率的にゴールを決めることで、その後の試合展開を優位に進めることができている。

著者名
田嶋コウスケ
著者紹介文

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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