南米勢が一掃された準々決勝
日々是世界杯2018(7月6日)

宇都宮徹壱

ウルグアイが敗れ、ブラジルは唯一の南米勢に

カザン・アリーナで出会ったベルギー人のカップル。手にしたトロフィーが本物になるのも夢ではない?

カザン・アリーナで出会ったベルギー人のカップル。手にしたトロフィーが本物になるのも夢ではない?【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)23日目。大会はいよいよ準々決勝に入る。この日はニジニ・ノヴゴロドにて、ウルグアイ対フランス。そしてカザンにて、ブラジル対ベルギー。いずれも南米対欧州という顔合わせとなった。毎回W杯を取材していて感じるのは、ラウンド16からクオーターファイナルに至る間に、空気感ががらりと変わるということだ。ラウンド16は、まだグループステージの延長上にあって、どこか祭典を楽しむ若干の余裕が残っていた。しかし強豪ばかりのクオーターファイナルになると、当該国のサポーターやジャーナリストの表情からは、これまでとは違った緊張感がひしひしと伝わってくる。


 カザンのメディアセンターには、17時30分に到着。テレビモニターを確認すると、30分前に始まったウルグアイ対フランスは、今のところ0−0のままになっていた。メディアチケットを受け取り、空いているデスクを探していると、ふいに「おおっ!」という声が沸き起こった。前半40分、フランスはラファエル・バランのゴールで先制。さらに後半16分には、アントワーヌ・グリーズマンが見事なブレ球のシュートで追加点を挙げ、そのままフランスが2−0で勝利した。南米勢の一角、ウルグアイはついに姿を消し、残るはこのあとの試合を控えたブラジルのみとなってしまった。


 前回のブラジル大会から一転、すっかり南米勢の影が薄くなってしまった今大会。開幕から3週間が過ぎて、ようやくブラジルの試合を記者席から見ることができて、少しほっとしている。ホスト国として臨んだ前回大会は、ネイマールを負傷で欠いた準決勝でドイツに1−7という歴史的な大敗を喫し、その後も不振の時期が続いた。しかし2年前の6月にチッチが監督に就任してからは、それまでのネイマール依存のサッカーから、より組織化されて失点しにくいチームに生まれ変わった。ちなみにベルギーとの過去の対戦は4回と少なく、ブラジルの3勝0分け1敗となっている。


 試合が動いたのは前半13分。左CKからナセル・シャドリのキックに、ニアサイドにいたガブリエウ・ジェズスがヘディングでのクリアを試みるも、ボールはフェルナンジーニョの肩に当たって、そのままゴールインとなった。オウンゴールでベルギー先制。しかし、驚きの展開はこのあとだった。前半31分、相手CKのクリアを拾ったロメル・ルカクがドリブルで持ち上がり、前方に展開するケビン・デブライネにラストパス。デブライネは悠然としたフォームから右足を振り抜き、これがゴール左隅に突き刺さる。ブラジルが前半のうちに今大会初の2失点を喫し、前半はベルギーのリードで終了した。 

日本戦を経て、強さが一段レベルアップしたベルギー

スタジアムの壁面スクリーンが美しく輝く中、敗れたブラジルのサポーターは静かに帰路についていった

スタジアムの壁面スクリーンが美しく輝く中、敗れたブラジルのサポーターは静かに帰路についていった【宇都宮徹壱】

 あらためて、この日のベルギーの布陣を確認しておこう。システムはいつもの3−4−3。しかし前線の3枚は、いつもセンターのルカクが右に回り、左はエデン・アザール、そして真ん中にはデブライネが入った。日本戦でのデブライネはセントラルMFだったが、今回はポジションが固定されていないようにも見える。守備に関しては、相手ボールの時には右ワイドのトーマス・ムニエが下がり、速やかに4バックに移行。ボランチのアフロヘアコンビ(アクセル・ビツェルとマルアヌ・フェライニ)が、体を張って相手のシュートコースを消し、それでも枠に飛んだらティボー・クルトワがファインセーブを連発する。


 こうなると、さすがのブラジルもゴールに迫るのは難しい。しかし後半31分、途中出場のレナト・アウグストのヘディングシュートが決まり、ブラジルが1点差に詰め寄る。それまで何とか3点目の糸口を求めていたベルギーは、2度のピンチを経てベンチも腹をくくったようだ。後半38分、足がつったシャドリに替えて、DFのトーマス・ベルマーレンを投入。さらに42分にはルカクも下げて、MFのユーリ・ティーレマンスを投入し、5バックでの逃げ切りを図る。アディショナルタイムには、ネイマールが際どいシュートを放つも、クルトワのスーパーセーブが炸裂。そのまま2−1でタイムアップとなった。


 試合後、ベルギーの選手たちは全員がピッチ上で輪になって喜びを爆発させていた。当然だろう。彼らにとって4強進出は1986年のメキシコ大会以来、実に32年ぶり。対するブラジルは、2大会連続ベスト4とはならず、あえなく大会を去ることとなった。前回大会以上に、チームの完成度が高いと思われていただけに、この結果はいささか意外である。と同時に、またたく間に南米勢が一掃されてしまったのは、何とも寂しい限りだ。これでW杯優勝経験国は、現時点でフランスとイングランドのみとなってしまった。こうなると、10年のスペイン以来となる「W杯初優勝」チームが誕生してもおかしくない。


 それにしても、すでに帰国した日本代表の選手たちは、この試合をどう見たのだろう。長友佑都はツイッターで《ベルギー強すぎる。俺らこんな怪物たちに真っ向勝負挑んでたんか。》と、率直な感想を記している。確かに、この試合のベルギーは、日本と戦ったラウンド16から、強さが一段レベルアップした印象を受けた。それこそ、日本戦での逆転劇が、彼らが自信を深めるひとつの契機となったのかもしれない。しかし一方で、日本がこうなっていた可能性も、決してゼロではなかったようにも思える。そうして考えると、今さらながらにロストフ・ナ・ドヌで失ったものの大きさを感じずにはいられない。

宇都宮徹壱

著者名
宇都宮徹壱
著者紹介文

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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