犠牲を伴ったロシアW杯での日本の快挙
「美談」で覆い隠すべきではない反省点も

宇都宮徹壱

最後の会見で「ハリルホジッチ」に関する質問をした理由

今大会での日本のラウンド16進出の快挙は、西野監督の手腕のみではないことを忘れてはならない

今大会での日本のラウンド16進出の快挙は、西野監督の手腕のみではないことを忘れてはならない【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会が開幕して、ちょうど3週間。ラウンド16の8試合が終了し、ベスト8が出そろったところで7月4日と5日(現地時間、以下同)はノーマッチデーとなった。今大会はあと10日を残すのみとなったが、ちょうど帰国の途についている日本代表について、自分なりの総括を試みることにしたい。


 5日には成田空港で会見が行われ、そこで新たな事実が明らかになることだろう(あるいは、長谷部誠や本田圭佑に続く「代表引退宣言」が行われるかもしれない)。それはそれとして、本稿では2カ月間限定の西野体制について、前任のヴァイッド・ハリルホジッチ体制の影響も含めて、プレー以外の部分をあらためて振り返ってみようと思う。


 7月2日のベルギー戦に敗れた直後の会見で、私は西野朗監督に前任者に関する質問をしている。内容を要約すると「監督がこのチームを引き受けるにあたり、前任のハリルホジッチ監督の良い部分をしっかり残しながら、自分の色をつけていったのではないか?」というものであった。会場にいた同業者の中には「W杯での最後の会見なんだから、空気を読めよ」と思われた方もいたかもしれない。しかし私としては、W杯での最後の会見だったからこそ、西野監督にはこの質問をぶつける必要があると強く感じていた。


 というのも私には、今大会でのラウンド16進出の快挙が、西野監督の手腕のみに帰する世論の空気に、どうにも言い尽くせぬ違和感を覚えていたからだ。おそらく、降って湧いたブームの中でW杯に関心を寄せていたライト層にとり、西野監督は「日本が世界に誇る名将」であり、ハリルホジッチ前監督については「解任されて激怒している、エキセントリックな外国人」という印象しかないのではないか(もしかしたら前任者の名前さえ知らない可能性もある)。それはJFA(日本サッカー協会)のみならず、メディアもまたハリルホジッチ前監督について冷淡であったことに起因すると思われる。


 今大会における、西野監督の緻密なチームマネジメントと絶妙な采配。そしてどんな相手に対しても受け身にならず、本気でベスト8を目指す姿勢を貫いたことについては、もちろん高く評価すべきだ。それでも、前任者の功績がまったく語られないまま、忘却されてよいはずがない。西野体制は、7試合で2勝1分け4敗。ハリルホジッチ体制は、38試合で21勝9分け8敗(PK戦は引き分け扱い)。これだけ実績の差がありながら、後者の仕事がまったく言及されなかったとすれば、これは極めて不自然なことであると言わざるを得ない。だからこそ最後の会見で、あえて西野監督にこのような質問をぶつけた次第である。

「準備期間が2カ月しかなかった」ことへの疑念

西野監督は2カ月という短い準備期間でチームをまとめ上げた

西野監督は2カ月という短い準備期間でチームをまとめ上げた【Getty Images】

 ハリルホジッチ前監督の解任について、田嶋幸三JFA会長は「コミュニケーション不足」を第一の理由に挙げていた。その是非はともかく、西野体制になって選手の表情に笑顔が見られるようになったのは、ひとつの事実である。大会終了後の岡崎慎司のコメントが興味深い。いわく「(選手)1人1人が意見をぶつけ合い、それを監督が許してまとめてくれることでチームになっていった」。しかし、一方で岡崎は「失敗できないという覚悟は持っていました」とも語っている。ここでいう「失敗」とは、前監督を切っても結果を残せなかったケースを意味する。つまり選手の側でも、ピッチ外の状況にプレッシャーを感じていたということだ。


 もっとも西野体制になってからの日本代表が、常に雰囲気が良かったというわけではない。取材者として見ても、5月30日に横浜で行われたガーナとの壮行試合(●0−2)、そして6月8日にルガーノで行われたスイス戦(●0−2)の直後は、チームの雰囲気も西野監督の精神状態も最悪の一言。練習中に見られた選手の笑顔や掛け声にも、どこか無理やりな印象が否めなかった。長友佑都が髪を金色に染めたのは、スイス戦の直後のこと。今にして思えば、自分自身を変えようとしたというよりも、チームの雰囲気を少しでも明るくしたいという切なる願いだったように思える。


 チームが本当にひとつにまとまり、上昇志向が醸成されたのは、誰もが認めるとおり6月12日にインスブルックで行われたパラグアイ戦(○4−2)であった。新体制となっての初ゴールと初勝利は、確かに極めてポジティブな要素である。ここで重視すべきは、もう2点。すなわち、ガーナ戦からパラグアイ戦までの3試合を、あくまでも「コロンビア戦に照準を合わせるために」費やすことを指揮官が決断したこと。そしてスタメン10名を入れ替えたことで、香川真司、乾貴士、柴崎岳、そして昌子源が本大会でスターティングイレブンに定着したことである。


 こうして見ると、よくぞ2カ月の準備期間でチームをまとめ上げ、コロンビアとの初戦に勝利したものだと思う。しかし一方で、「なぜ準備期間が2カ月しかなかったのか?」という、そもそもの問題を看過すべきではない。仮に、昨年12月のEAFF E−1サッカー選手権2017決勝大会の結果を重視したのならば、その時点で監督交代を決断すべきであった。そうすれば、西野監督には半年の準備期間が与えられ、より慎重なメンバー選考とチームマネジメントが可能となっていただろう。指揮官と選手に不必要な負荷を与えることになった、JFAの決断の遅れを「美談」で覆い隠すべきではない。

宇都宮徹壱

著者名
宇都宮徹壱
著者紹介文

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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