打ち合いになったポルトガル対スペイン
戸田和幸が両チームの「組織」を徹底分析

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グループリーグ屈指の好カード、ポルトガル対スペインを戸田和幸さんが徹底分析

グループリーグ屈指の好カード、ポルトガル対スペインを戸田和幸さんが徹底分析【Getty Images】

 現地時間6月14日に開幕したワールドカップ(W杯)ロシア大会。大会2日目の15日には、早くもポルトガル対スペインというグループリーグ屈指の好カードが行われた。


 世界中のサッカーファンが期待した対戦は壮絶な打ち合いとなり、最終スコアは3−3。このスリリングなシーソーゲームで何が起こったのか、サッカー解説者の戸田和幸さんに、データスタジアム株式会社のデータを用いながら解説してもらった。

スペインが持ち、ポルトガルが受ける

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション【データ提供:データスタジアム】

 終わってみれば3−3、素晴らしい両チームによる戦いは打ち合ってのドローに終わりました。短期の大会において非常に重要な初戦が行われる2日前に、フレン・ロペテギ監督が解任となる非常事態。スペインは急きょ、スポーツダイレクターを務めていたフェルナンド・イエロを監督に据え、大会に臨むこととなりました。


 非常に順調に思えたW杯への道のりが一転してイバラの道となってしまったかに思えましたが、スペインはこの騒動に動じることなく、時に危険なカウンターを許すも、随所に素晴らしいクオリティーのサッカーを見せてくれたと思います。


 一方、現ヨーロッパチャンピオンのポルトガル。ベルギーとのテストマッチ(0−0)ではクリスティアーノ・ロナウド不在の中、全体的な動きの重さが否めませんでした。特にジョアン・マリオの守備面での物足りなさ(ベルギーが3−4−3を採用、ウィングバックについていかなくてはならない場面での対応に課題)が目立ちました。


 チャンピオンズリーグ(CL)ファイナルまで戦ったために合流を遅らせたロナウドが戻ると、大会前最後のテストマッチとなったアルジェリアには3−0で快勝。この試合ではベルギー戦で振るわなかったジョアン・マリオに代わりブルーノ・フェルナンデスが左サイドハーフ(SH)で出場します。本職はトップ下の選手ですが、イタリアで鍛えられた守備も評価されての、ロナウドを最大限に生かすための起用と見ました。見事、フルタイム出場に加え、1得点を挙げたブルーノ・フェルナンデスがスペイン戦のスタメンに抜てきされることとなりました。


 またエースのロナウドのパートナーは、予選を通じてコンビを組んできたアンドレ・シウバではありませんでした。5得点と数字としては物足りませんが、バレンシアで良いシーズンを送り、アルジェリア戦でも2得点を挙げたゴンサロ・ゲデスが選ばれました。


 おそらくこの試合をご覧になった多くの方が試合前に予想したであろう、スペインが持ち、ポルトガルが受け止めカウンターを狙うという展開。まさにその通りの内容となったこの試合は、ロナウドの驚異的な活躍がことさら印象に残るかもしれませんが、両チームがどんな戦いを見せたのか、データも使いながら振り返ってみたいと思います。

身を粉にして走ったポルトガルの技巧派たち

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア【データ提供:データスタジアム】

 ポルトガルはウインガーからストライカーへというロナウドのプレースタイルの変化に応じる形で、チームのプレーモデルも変化を遂げてきました。シーズン序盤はコンフェデレーションズカップを戦った影響もあり、先シーズンの疲労が残っていたと思われるロナウド。あえてスロースタートしたと思わせるくらい前半戦は調子が上がりませんでしたが、シーズン後半になると一気にギアが上がりました。


 CL3連覇に大きく貢献する素晴らしい活躍を見せた大エースを前線に残し、極力無駄なエネルギーは使わせず、攻撃に専念させる考え方は、所属クラブであるレアル・マドリーと同じです。


 ポルトガルのベースとなるシステムは4−4−2、所属クラブのレアル・マドリーは4−3−3(時に4−4−2)ですので、この点においては違うのですが、その分、よりバランスを重視したソリッドな陣形を維持し、ポルトガルは奪ったら速い攻めを狙います。


 マンチェスター・シティに所属するベルナルド・シウバを右SHに置き、攻撃時は内側へ入らせて変化を付けることを一つの形として持っていますが、この試合においてはとにかく守備に追われる展開になります。幅を取りつつ相手サイドバック(SB)のやや内側、ハーフスペースに入ってくるうまさ、そこからの効果的なチャンスメークが彼の持ち味ですが、さすがにスペイン相手にはボールに触れる回数も少なく、流動性も発揮することができませんでした。


 特にスペインはアンドレス・イニエスタ、イスコ、ジョルディ・アルバ、そして時にダビド・シルバまでもが左サイドに顔を出し、左右非対称な形であえてバランスを崩した攻撃を仕掛けてきたので、ポルトガルの右サイドは常に押し込まれて劣勢に陥ることになりました。


 この手のタイプの選手としては非常に少ない数字といえるパス数18本(16本成功、69分間の出場)というスタッツが記録されており、左SHのブルーノ・フェルナンデスも同様に18本(15本成功、68分間の出場)と、両SH共にボールに触れる機会がほとんどなかったと言えるくらい、守備で働いた試合だったと言えます。


 ちなみにスペインの中盤の選手と比較してみると、イニエスタ65本(60本成功)、コケ83本(76本成功)、スタートポジションは左のウイングでしたが縦横無尽に動いたイスコが100本(89本成功)と、同じボールプレイヤー同士でもこれだけ数字に違いが出た試合でした。

左はB・フェルナンデス、右はB・シウバのプレーエリア。ポルトガルの両翼は守備に追われ、中央に寄ってボールに絡む持ち味が出なかった

左はB・フェルナンデス、右はB・シウバのプレーエリア。ポルトガルの両翼は守備に追われ、中央に寄ってボールに絡む持ち味が出なかった【データ提供:データスタジアム】

 両チームの持つプレーモデルの違いと言えばそれまでですが、ブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シウバは共に所属クラブではボールにたくさん触れ、多くのプレー機会に恵まれる中で違いを見せる選手。そんなボールプレイヤーの2人が共に目いっぱいチームのために走りました。70分を前にベンチに下がるまでの間、ほとんどボールに触れる機会がなかったものの、攻撃面に特徴を持つ選手が守備のタスクをしっかり果たした試合と言えます。


 この試合、ブルーノ・フェルナンデスはシュートを1本記録していますが、ベルナルド・シウバに至ってはシュートもスルーパスもクロスも0。予選を通じてここまで守備に追われた試合はありませんでしたが、スペインを相手にするにはそれくらいしんどい仕事をしなくてはならないということなのでしょう。


 ポルトガルがチームとして機能するためには、ロナウドをできるだけ前に残し、守備に走らせることはせずエネルギーを溜めておくこと。ただし、クオリティーの高いカウンターを繰り出すには前の2枚を除いた状態での強固な守備組織はもちろんのこと、戦術的に明確な狙いを持つことだけではなく、他の選手たちの技術的なクオリティーが必要となる。だからこそ、彼ら2人がSHとしてピッチに送り出されたのだと思います。


 監督から与えられたタスクに対して忠実に、本来であればやりたくない仕事も率先して行い、チームの勝利のために身を粉にして走る。スペインを相手にロナウドとゲデスの2枚を残し8枚で守る、奪った後の攻撃を考えれば、この日挙げた全ての得点が長いボールからつないだものやこぼれ球から、もしくはロングパスからのキープで獲得したFKからのものであったことを考えても、ポルトガルがあえて2枚を前線に残して、それを狙っていたのは間違いありません。


 とはいえ、8枚であのレベルのポゼッションプレーをコントロールし、ボールを奪うことは本当に難しい仕事になります。別の言い方をすれば、あれだけスペインに持たれ、振られ、間を割られ、サイドをえぐられてしまったポルトガルの守備は、実際にはそこまで戦術的にレベルの高いものではないという言い方もできるのかもしれませんが、それでもやらなくてはならないことはやるというひたむきさ。


 そして、あくまでもチームの勝利のために監督から与えられたタスクを忠実に遂行するという姿勢、または攻撃的な選手であっても守備も含めた戦術的に多様な能力がこのレベルのサッカーには絶対に必要だということを、ジョアン・モウチーニョを含めたポルトガルのテクニカルな中盤の選手たちの献身的な働きぶりを見て、あらためて認識させられた試合でした。

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