パラグアイ戦の勝利で「代表熱」は蘇るか
際立った西野監督のベンチワークと対応力

宇都宮徹壱

W杯の盛り上がりが低い中で

パラグアイ戦で声援を送る日本代表のサポーターたち。日本国内でのW杯熱はあまり高まってはいない

パラグアイ戦で声援を送る日本代表のサポーターたち。日本国内でのW杯熱はあまり高まってはいない【写真:アフロ】

「そうなんですか? 今、初めて残念な報告を聞かされました。盛り上がっていないんですか?」──。現地時間11日に行われたパラグアイ戦の前日会見、スイス戦から一転して西野朗監督にはいつもの饒舌(じょうぜつ)さが戻っていた。ところが「日本国内のワールドカップ(W杯)の盛り上がりが過去5大会と比べて低い中、代表監督としてどう考えているのか?」という記者の質問には、軽いショックを受けた様子。最初は「西野さん、とぼけているのかな?」とも思ったのだが、困惑する表情に偽りはないようだ。あるいは代表監督に就任して以降、ネットの情報を意識的に遠ざけていたのかもしれない。


 私自身、日本を離れて1週間が過ぎているので、国内の日本代表に対するまなざしがどのようなものなのか、肌感覚ではよく分からない。それでも私の周囲では、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の解任を受けて「代表を応援するモチベーションが失せた」という人は何人もいるし、ロシアでのW杯観戦を取りやめた人を3人知っている。コロンビア戦のパブリックビューイングの運営に関わっている友人からも「定員300人に対して予約は10人しか集まっていないんですよ!」という、悲鳴のようなメールをいただいた。やはり、盛り上がっていないのは間違いなさそうだ。


 西野監督はご存じなかったとしても、世論が必ずしも自分たちに味方していないことを、選手たちは鋭敏に感じ取っている。スイス戦後、長友佑都がいきなり髪の毛を金色にして、周囲を驚かせたことがあった。当人はメディアの取材に対し、「スーパーサイヤ人になろうと思ったら、スーパーゴリラになってしまって(笑)。ここ、笑っていいところですよ」とおどけていたが、もちろん笑いを取るためにそんなことをしたとは思えない。そこには「気合いを入れ直す」という部活めいた思いだけでなく、「何とか日本代表に振り向いてほしい」という焦りにも似た心情がうっすらと見えてしまう。


 もしかしたら、JFA(日本サッカー協会)の上層部は「人気選手を集めておけば、自ずと注目される」と見込んでいたのかもしれない。だとしたら、かなりの見込み違いだったことになる。逆に、所属クラブでしっかり結果を出している長友が、ベテランであるというそれだけの理由で「忖度(そんたく)で代表に選ばれた」と思われているのならば、非常に不幸なことであると言わざるを得ない。なぜ、こんなことになってしまったのか? 日本代表の戦いが終わったら、この問題はすぐに精査されるべきであろう。

スタメン10人を入れ替えた日本と緩慢なパラグアイ

日本はパラグアイ戦に向け、スイス戦からスタメンを10人変更して臨んだ

日本はパラグアイ戦に向け、スイス戦からスタメンを10人変更して臨んだ【写真:アフロ】

 この日の日本のシステムはスイス戦と同じ4−2−3−1。スターティングイレブンは、以下のとおりである。GK東口順昭。DFは右から遠藤航、植田直通、昌子源、酒井高徳。中盤はボランチに柴崎岳と山口蛍、右に武藤嘉紀、左に乾貴士、トップ下に香川真司。そしてワントップは岡崎慎司。西野監督が予告したとおり、先のスイス戦から酒井高を除く10人が入れ替わり、東口、遠藤、昌子をはじめとした9人が現体制となって初のスタメンとなった。中でも、久々のスタメン入りとなったのは、香川と岡崎。それぞれ、昨年10月のニュージランド戦、9月のサウジアラビア戦以来の先発である。そして腕章は、初めて山口に託された。


 それにしても驚かされたのは、これまでセンターラインの軸に置いていた選手たちが、ことごとく控えに回っていたことである。長谷部誠しかり、本田圭佑しかり、吉田麻也しかり、川島永嗣しかり。出番のなかった選手にチャンスを与えるのは理解できるが、実戦を想定したコンビネーションを試さなくてよいのだろうか? 鹿島アントラーズのセンターバックコンビを一緒に使うのであれば、むしろ吉田と植田を組ませてみてもよかったのではないか、などと心配してしまう(もっとも試合前の時点でキャップ数合わせて12のコンビが、南米の中堅国を相手にどこまで戦えるのか、これはこれで見てみたい気もするが)。


 対するパラグアイは、やはりW杯南アフリカ大会ラウンド16での激闘が記憶に残るチームである。しかし直近の2大会は、ことごとく南米予選を突破できず、今予選も10チーム中7位に終わった。スタメンの顔ぶれを見ると、8年前に日本と死闘を演じたGKのフスト・ビジャールが最年長の40歳。残りはサブも含めて全員が20代である。来年のコパ・アメリカに向けて、チームは若返りの途上にあるようだ。


 問題は、この日本戦に臨む彼らに、どれほどのモチベーションがあるかである。実際、試合が始まってみると、パラグアイのプレーには少なからず緩慢さが見られた。本番では絶対に通りそうにないパスがバシバシと通り、日本が一気にアタッキングサードまでボールを持ち込むシーンが、序盤からたびたび見られた。そして前半12分、パラグアイがいきなり選手交代。ビジャールが退いて、12番を付けたアルフレド・アギラルが入る。実は40歳のベテランGKにとって、これが代表での引退記念試合。ラストマッチの相手が思い出深い日本であったことに、当人は何を思うのだろうか。

宇都宮徹壱

著者名
宇都宮徹壱
著者紹介文

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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